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谷川岳/一ノ倉沢
一ノ倉沢本谷〜4ルンゼ
2016年10月30日



《プロローグ》

昨冬の暖冬寡雪は多くのウィンタークライマーを泣かせたみたいだけど、俺自身は仕事が忙しくなかなか山へ入れなかったから、多くのクライマーがSNSで嘆きの投稿をするたびにザマァ見ろと心の中で呟いてた。



そんな悲劇のシーズンが終わろうとする頃、ふとあるフレーズが頭の片隅に浮かんだ。



「幻の大滝」


ごく一部の人種の胸には、このフレーズが甘美でミステリアスに響き渡る。







国内有数の豪雪地帯である上越の名峰、谷川岳。

その東面を深くえぐり取ったようにそびえる一ノ倉の岩壁は、右手に衝立岩、左手には滝沢スラブと、多くの有名・人気ルートを抱えたフェイスを持ち、秋の週末ともなればテラスは順番待ちのパーティで賑わう。





その両壁を隔てる深く切れ込んだ谷が一ノ倉沢本谷だ。

冬の間に一ノ倉沢へ降る雪は急峻な壁面を雪崩れ、谷の奥底に深く、硬く、幾層にも重なり堆積する。

夏になって雪が溶け、偉大な先人達がその岩肌に刻んできたルート群が登攀可能になっても、谷間の雪は雪渓として残り、恰好のアプローチとなる。



特に本谷下部の最深部に位置するゴルジュには晩秋まで雪渓が残り、完全に溶け切らないまま次の冬を迎える。





だが数年に一度、この深い谷の雪渓が全て溶けて無くなり、下部ゴルジュの最奥に眠る20mの大滝がその全容を表す。


それが幻の大滝だ。






夏に黒部上の廊下を遡行した時、最も危惧していた水温が噂で聞くほど冷たくなくて拍子抜けしたが、それは上流の雪渓が全て溶けてしまっているからだと聞いて、再び幻の大滝の事が思い出された。

それ以来、この言葉が俺の中で徐々に輪郭を形成していった。

季節が夏から秋へ変わると、一ノ倉沢本谷の記録がweb上にも投稿され始めた。

予想通り下部ゴルジュの雪渓は消えており、今シーズンは多くのパーティーがこの幻の大滝の登攀を楽しんでいるようだ。



俺もカレンダーと嫁の顔色を交互に伺いつつ密かに情報を集めていたが、なかなか日程の都合が付かないまま10月も半ばを過ぎようとしていた。

やっと日程の目処が立ち、無事に嫁の了承も得ることができ、次は何年後に来るか分からないチャンスをつかむことが出来たのだ。

偶然にも青鬼のメンバーが俺に先立って本谷下部を登攀しており、直近の詳しい情報も得ることが出来た。



一ノ倉沢本谷へ向かう準備を進めるうちに、これまでにない悩みにぶち当たった。

果たしてこのルートは沢登りなのか、それとも岩登りなのか?





チャレアルに無雪期ルートとして収録されているところをみると岩登りの要素が強いと思われるが、他の記録や最近行った青鬼メンバーの情報からは、どうやら水に浸かる場面があるようだ。

水に浸かる以上は沢靴を持って行きたいところだが、幻の大滝を始め、核心となる登攀はフェルトソールでは厳しいような気がする。

となればフラットソールも持って行く必要が出てくる。更には、さすがに西黒尾根をフェルトソールで下山するわけにもいかないだろうからアプローチシューズも必要となり、靴だけで3種類も持っていくことになってしまう。

この悩みが解決できないまま予定していた前日を迎え、結局1週間計画を先送りにした。



7月のホラノ貝でラバーソールの沢靴組が核心の滝をフリーで越えていたのを思い出し、FIVE TENのウォーターテニ−を買ってみることにした。



ウォーターテニーにしたのは単純に他の沢靴に比べて軽かったし、ウェットコンディションでのフリクションにも定評があったからだ。

沢靴が軽くなった分、念のためフラットソールも持っていくことにした。

ビレイ器はソロイスト、プロテクションはキャメロットを黄色以下1セットとマイクロカム、トライカムも小さめをいくつか持って行ったが、ボロ残置を使う可能性を考えればワイヤーの付いたナッツを準備した方が良かった。

ハーケン類は2枚、これはさすがに少なすぎたとゴルジュの中で後悔した。



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