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北アルプス/劔・立山
八ツ峰Y峰・チンネ左稜線
2011年8月13日〜16日


《プロローグ》 発熱

彼女の誕生日祝いで行ったディズニーランドは、夏休みの家族連れとカップルでごった返していた。

昼ごろから少し体調がすぐれないことを感じていたけど、帰って熱を測ったらなんと38度もあるではないか・・・・

そのまま彼女をほったらかして扇沢駐車場へ向かうつもりだったけど、さすがに出発は諦めておとなしく寝ることにした。

せっかく一か月間かけて計画し、準備してきたのにこの機会を逃したら次は一年以上先になってしまうぞ。

かなり悩ましかったけど、彼女の看病のおかげもあって翌日の夕方には熱も下がってきたから彼女に告げた。

俺「じゃあ劔行ってくるわ。」

彼女「・・・・あんた死ぬつもり?」


《出発》

不調を感じたらすぐに引き返すことを約束して半ば強引に出発することにした。

これまでチンネ左稜線ソロをやろうと劔に向かうこと計2回。どっちも雨天のため、まだチンネは拝んでない。



初めて行ったのは2008年の8月。単独で黒部ダムから内蔵助平経由で真砂沢に入った。アタック日は長次郎谷から雨が降り出し、先行パーティーはことごとく引き返してきていた。

池ノ谷乗越まで行ってそのまま北方稜線から本峰に向かって、雨に濡れた一般道の下りで滑って転んで腰を強打し、足を引きずりながら30kgの荷物を背負って道の悪い内蔵助谷をダムまで引き返した。



2回目は2010年の8月。このときはペコマ、チッペ、ヒロと一緒に室堂から劔沢キャンプ場まで向かったけど、やはりアタック日は雨のためそのままどこも登らずに帰ってきた。




そして今回三度目となるチンネソロ登攀計画。最初は真砂沢から八ツ峰マイナーピーク東面スラブを登ってからの八つ峰全縦走〜チンネを考えたけど、web上で記録を探したところ、マイナーピークからT峰まではおそらく藪漕ぎがハンパないだろうということが予想され、しかも発熱で出発を1日遅らせたこともあってY峰Cフェースから八ツ峰後半縦走〜チンネへ計画を切り替えた。



ちょうどペコマ&チッペも黒部丸山をやっていて、二人が計画通りなら真砂沢で合流できるだろうということもあった。



《Day1》8月13日 アプローチ



扇沢で車中泊して翌朝黒部ダムまで向かったけど、お盆シーズンってのもあって始発からアルペンルートはディズニーランドに匹敵する激込みだった。



人ごみに揉まれながら黒部ダムに到着し、ここからは一人静かに下ノ廊下を真砂に向かって歩き始めた。

下から見上げる黒部ダムもなかなか迫力があっていい。



内蔵助谷出合まで下って、そこから内蔵助平目指してすすんでいくと左手に大きく立ちはだかる黒部丸山東壁が見えてくる。



計画では今頃ペコマ&チッペが東壁を登攀しているはずだとよく探してみると・・・

いた!しかもちょうど大ハングをチッペがエイドでリードしてるとこだ。



休憩も兼ねて二人の登攀の様子を小一時間ほど眺めてから先に進んだ。

内蔵助平を通過し、けっこう登りのキツいハシゴ谷乗越を越えて真砂沢に到着した。



しばらくすると丸山東壁の登攀を終えたペコマ&チッペが真砂沢に到着したのでさっそく三人でチンネ登攀の成功を願って乾杯した。





《Day2》8月14日 八ツ峰 Y峰Cフェース&後半縦走

3時頃起きて四時半ごろアプローチを開始したが、大学山岳部やおじちゃん&おばちゃんたちのパーティーはもっと出発が早い。



ほかのパーティーは登攀に必要な荷物だけ持ってアプローチしていたけど、こっちはもうここに戻ってこないから縦走装備とロープ・ギアを一人で担いで長次郎谷を登らなければならない。

それでも何パーティーかは追い抜いてY峰Cフェース基部に到着した。



もともとペコマ&チッペはT・Uのコルから八ツ峰全縦走する予定だったみたいだけど、前日真砂沢でビール片手にあーだこーだ言いながら結局はCフェースをやることになったみたいだった。



剣稜会ルートの取付きにはすでに7パーティー程が順番待ちしていた。大学山岳部のパーティーは諦めてDフェースに移っていったけど、それでも順番待ちは5パーティーくらいあった。

でも天気は快晴で、熊の岩、源次郎尾根方面の景色も最高だ!



2時間ほど待って9時ごろにやっと順番が回ってきた。

今回はこれまでのソロと違い、登り返しで縦走装備の荷揚げもしなければならない。

さすがに30kg程を背負って登り返すのはしんどかった。



先行しているペコマ&チッペとの間には2パーティーいて、その先にも他パーティーがいるから各ビレイ点での順番待ちも長い。



リード自体はV級程度で快適で、ハイライトのナイフリッジもかなりの高度感があって爽快だった。

しっかりした残置ハーケンはありがたく使わせてもらい、不安な個所はカムで支点を取りながら登った。



順番待ちが長かったせいもあり、終了点に着いたのが15時ごろになってしまった。



八ツ峰Y峰からの縦走は2か所ほど懸垂下降したけど、登りではロープは出さずに抜けられた。



本来の計画では三ノ窓でビバークの予定だったけど、八ツ峰の頭にツェルト一張り分ほどのフラットなスペースがあったからそこでビバークすることにした。

夜中に目を覚ますと八ツ峰、長次郎谷、源次郎尾根、そして本峰が月明かりに照らされいて、稜線上のビバークならではの幻想的な光景を楽しんだ後、吹き抜ける風で半分潰れたツェルトに潜り込み再び眠りについた。







《Day3》8月15日 チンネ左稜線〜劔岳本峰

朝食を簡単に済ませ、急いで荷物をまとめてから池ノ谷乗越へ懸垂下降し、そこでチンネ登攀に必要な道具以外はデポして池ノ谷を三ノ窓へ向けて下って行った。



三ノ窓雪渓をトラバースしてチンネ基部に着くと、すでにペコマ&チッペは4P目あたりを登っていた。



取付きでは先行の1パーティーが登攀を開始したところだったから、準備をしつつ順番を待った。

通常の1ピッチ目はV級のフェイスを登ってテラスに上がるようだけど、テラスには横から簡単に上がれてしまうから、テラスからを1P目として登攀を開始した。

最初のピッチ(トポでの2P目)はW級の凹角。朝一で少し登りがぎこちない。

2Pで上の広いバンドまで上がり、本来ならここからピナクルへ向けてV級の凹角を登るはずだか、トポを読み間違えて右奥のルンゼを登ってしまった。

このルンゼ、かなりガレてて、しかも結構嫌らしい草付だったけど、行けそうだったからフリーソロで抜けた。

この時点ではまだ間違っていたことに気づいておらず、ピナクル上(本来の3P目終了点)に出たと勘違いしていたから、この先2P(フェースV級+、リッジT級)はとりあえずフリーソロで行けるだろうと確保なしで進んだ。



次はハイマツ混じりのフェースU級だな、と次のピッチを見上げて、



「あれ?これって核心の小ハングX級じゃね?」

って思ってトポを見直してからルートを間違っていたことに気づいた。

実は登ってきたのが本来の6P(フェースU級)〜7P(リッジV級)〜8P(ピナクルの林立するリッジ W級)で、何とT5手前のW級のピッチをトポ上の5ピッチ目のT級と勘違いして登攀具を全部背負った状態でフリーソロで抜けてしまったのだ。

「・・・まいっか。」

とさっそく一度しまったロープをザックから出して、T5でソロシステムの準備をしていると、チンネ左稜線の登攀を終えたペコマ&チッペが三ノ窓にデポした荷物を取りに戻ってきたのが見えた。



なんていいタイミングなんだ!大声でやり取りして核心部登攀の写真を撮ってもらった。





核心の小ハングはホールドが豊富で、しかも露出感があって、ソロでやるには程よい緊張感を味わえる。

その先も露出感の高い歯ごたえのあるピッチが続き、爽快なソロクライミングを楽しめた。



チンネの頭に着くと、ちょうど中央チムニーを終えた2人パーティーがいて、一言二言交わしてから池ノ谷へクライムダウンし、池ノ谷乗越まで戻ってきた。



デポした荷物をまとめて北方稜線を本峰へ向かったけど、途中からガスが濃くなって、本峰直前で雨が降り出した。



本峰に着いたけど雨で展望ゼロだったからさっさと一般道を下り始めた。



前回(2008年8月)も頂上は雨で一般道の下りが悪かったけど、今回もまた同じ状況だった。

岩がよく滑ってかなり怖い。



これチンネのW級ピッチフリーソロよりよっぽど危ないじゃん!しかも確保してないから滑ったら死ぬな・・・

と、結構慎重に下ってたけど、それにしても体がやけに重い。

考えてみれば朝食も昼食も簡単な行動食しかとっておらず、しかも二日間稜線上だったから水が切れかけていたせいで水分補給も十分していなかった。

あとから考えてみれば単なるシャリバテだったんだけど、前回滑って腰を強打してかなりつらい下山になった場所っていうのもあって、今回もやっぱしんどいなーって感じながら下った。

途中で何度も座り込んで休憩し、これまで他の登山者に抜かされたことないのに、このときは結構年配の夫婦にも道を譲ってた。



最後には、剣山荘に着いたらコーラ買って飲む!ってことだけ考えながら歩いてた。

必死の思いで剣山荘に着いて、とりあえずコーラ飲んで喉の渇きを癒したら、もう動きたくなくなった。テン場はないから山荘に素泊まりすることにして、濡れた荷物を乾燥室に干してから食事を取り、さっさと寝た。





《Day3》8月16日 下山

まともな食事とって一晩寝たら体力は完全に回復していて、剣山荘を出てから3時間ほどで室堂に着いた。





室堂で扇沢までのチケット買おうとしたら、前日の山荘泊のせいで荷物券を買うお金が足りず、明らかに重量超過のデカい荷物を背負ってしれーっと乗車したけど何も言われなかった。(ごめんなさい・・)



扇沢を後にして彼女と合流し、明野の向日葵畑を見に行った後、ブドウ狩りでブドウを死ぬほど食べたらいつの間にか短い夏休みは終わっていた。







《エピローグ》

最初の計画から3年越し、三度目にしてやっと念願のチンネ左稜線ソロをやることが出来た。



その間の他のソロクライミングは実は宮崎県雌鉾岳の「大長征」の1回だけだ。

でもこの1回のソロはこのチンネ左稜線のソロに少なくない影響を与えたと思う。

これまでのソロは北岳バットレス、一ノ倉沢衝立岩、北穂ドーム中央稜といったアルパインのクラシックルートがメインだった。



大長征はピッチグレードこそX級+だけど、よりスポーツクライミングの要素が強いルートで、これからの自分のソロクライミングを拡げる可能性を示唆してくれた。

その次のソロが今回のチンネ左稜線だった訳だけど、チンネの登攀を終えて感じたことは、正直言って自分を成長させるようなクライミングではなかったということだ。



チンネ左稜線はルートとしては十分楽しめたし、素晴らしいラインだと思う。装備を全て荷揚げしながらの剣稜会ルート〜八ツ峰後半縦走も充実する登攀だった。

クライミングはグレードが全てじゃないという考えには自分も賛成だけど、この登攀が自分のソロクライミングにおける何かを引き上げてくれたかと聞かれると、自信を持ってそうだと答えることはできない。

でもそう感じさせるこの登攀があったからこそ、もっと自分のソロの可能性を拡げたいと強く思うことが出来たとも言える。



これまで誰からも教わることなく、全て自分で考えてソロクライミングの方法を模索して来たけど、やっと入口に立った気分だ。

ソロをやってるプロの登山家・クライマーには到底及ばないだろうけど、まだまだアマチュアソロクライマーとして成長できる可能性を十分感じる。

これからはアルパイングレードよりもデシマルグレードのついたルートのソロに積極的に挑戦していきたい。そして、最終的にはビレイ点も含めすべて自分で支点工作し、オールフリー&オールナチュプロでトポなんか無いようなルートを登れるようになりたいと思う。



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