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北アルプス/槍・穂高
滝谷ドーム中央稜
2008年8月7日



《プロローグ》

今回は新たに設立したばかりの大学の山岳同好会の夏合宿で穂高に来ている。



つい1週間前に、新たに考案したソロシステムで谷川岳・一ノ倉沢 衝立岩中央稜のソロ登攀に成功してて、いろんなルートで試してみたくて仕方なかった。



だから今回も1週間分のテント泊装備に加えてソロ用の登攀具一式を準備してきた。



更には合宿の宴会用のビールやらボトル入りのグレンフィディックやらをザックに積めて、その重さに死にそうになりながら何を血迷ったかパノラマコースを選び、あえなく奥又白の分岐でダウン・・・





何と涸沢まで2日も掛かってしまった!

ま、上高地出たのが昼頃だったんだけどね。



1日目はペコマ、チッペと後輩Mr.Mのトレーニングのため、前穂北尾根を歩いた。



そして2日目の今日、チッペたちが新入生を連れて北穂〜奥穂を縦走してる間、自分は滝谷ドーム中央稜をソロでやることにした。



このルートは2日前にペコマ達が登っていて面白かったって聞いてたし、やっぱ「滝谷」ってのがいい。



北穂のピークから見るドームは、正に岩の殿堂と呼ぶに相応しい力強さを持っている。



そして穂高の稜線上から見下ろす滝谷は、涸沢側の明るい開けた印象とは対照的に、鋭く切れ落ちていて常に薄暗く、飲み込まれてしまいそうな錯覚に陥る。



一度、涸沢岳の手前のガレ場で浮き石が外れて滝谷へ落ちていったことがある。

落石は他のガレを巻き込んで次第に大きくなり、深い谷底全体に響き渡るほどの唸りがしばらくなり止まなかった。

さすがにこのときはその場にいた他のメンバーと青ざめた顔を見合わせてしまった。






《アプローチ》

朝、涸沢を出発して先ずは北穂目指して稜線に出た。



他のメンバーは北穂山頂(北峰)に行ったが、こちらは南峰に上がってみた。





お互いに写真を取り合ったあと、稜線の一般道を奥穂方面へ歩き、ドームを過ぎたところから一般道を離れて滝谷側に降りて行った。



踏み跡らしきところを下っていくと懸垂支点があり、そこから一回ラペルして、ドームの基部を北穂側に進むと取り付きにたどり着いた。








《登攀》

取り付きにつくと先行パーティーが登ってたけど、順調に進んでそうなので少し安心した。



1ピッチ目はW級のチムニーだ。



見上げて少し考えた。

それほど悪くはなさそうなピッチだな…

一応すぐに確保できるようにセットはして、フリーソロで行くことにした。

いつもフリーソロで登る際は一つ一つのホールド・スタンスに最大限の注意を払って進むけど、このときもそんなに不安なホールドはなく、快適に高度を上げていった。

だけど1ピッチ目終了点のテラス直下で詰まってしまった。

チムニーや凹角ではしばしば遭遇するパターンなんだけど、抜け口が張り出していて、のっ越すためには体を壁の外に出さないといけない場合がある。

今回は正にそのパターンで、しかも悪いことにチムニーは外に行くほどフレアしていて突っ張りが利かなくなる。

さすがにこれをフリーソロで抜けるのはやめた方がいいと考えて、ランニング用の残置ハーケン一本に確保をとり、更にカムで固め取りしてアンカーとし、ソロシステムをセットしてから抜けに入った。



恐る恐るチムニーから体を出していくと足元にはポッカリと空間ができて恐怖心を煽る。

フレアした壁の凹凸を慎重に捉えながら何とかリップをつかみ、ひと安心してテラスへのマントルを返そうとしたとき、ロープに体が引っ張られて上がらなくなってしまった。

ザックの中でロープが絡まって出てこないのだ。何度ロープを引っ張ってもロープは流れない。

取りつくときにフリーソロで抜けられるだろうとタカをくくってたから、ロープをちゃんとさばいて積めてなかったのだ。

下にとったランニングまで微妙なチムニーをクライムダウンすることも出来なかった。

正直結構焦ったけど、リップはしっかりしてるし、後はマントルを返すだけだ。

片手でリップをつかんだ状態でザックを片方ずつ慎重に肩から外し、何とかロープギリギリの長さでテラスへ乗せた。

ビレイ器からロープを外して確保無しの状態でマントルを返し、無事1ピッチ目を終了した。



ザックの雨蓋を開けてみると案の定ロープがこんがらがっていた。

ロープをほどいてテラスのアンカーにセットして、1ピッチ目の途中から取った支点を回収しに下った。

いや、危なかったな…

ロープがあと10cm伸びなかったらザックを乗せることは出来なかったかもしれない。

その場合はチムニーの核心部を必死のクライムダウンだったかな…

反省して2ピッチ目のフェイスはちゃんとビレイ器をセットして登った。





んーでもやっぱ支点回収の登り返し面倒だ…



3ピッチ目はT級だからもちろん確保なし!!



4ピッチの取り付きで上を見上げると先行パーティが次のW級のピッチを登っているのが見えた。



何て気持ち良さそうなんだろう…

まるで大空へ向かって登っていってるようだ…



もうこの時点で1ピッチ目の反省なんて霞んでた。

ラインは傾斜のない凹角だ。行ける所まで行って不安な箇所で確保すればいいや。



先行パーティーのフォローが登り終わったのを見計らってまたしてもフリーソロで登りはじめた。



テラス直前まで無難に登っていくと、

またこのパターンか!!

抜け口にはフレーク状のチョックストーンが張り出していて、凹角から体を離さないとのっ越せない。



うーん…

フレークはガバだし、岩もしっかりしてそう…

行っちまえ!!

フレークでレイバック体勢となって右壁の小さなスタンスを拾って体を上げて…

もうこの体勢になったら修正は効かない。必死にテラス上のいいホールドを探って何とかマントルを返した。

ふぅ、ちょっと危なかったけどいいクライミングだったぜ!



最終ピッチは全体の核心ピッチだったからさすがにロープは出した。



最後の箇所でライン取りを少し迷ったけど緊張感のあるフェイスクライミングが出来た。



左手には北穂のピークが迫り、下を見下ろすと雲の沸き立つ深い滝谷が見渡せる。





回収の懸垂でその高度感に酔しれながら、北穂ピークの登山客に手を振った。





ドームの頭で登攀具を外してザックにしまい、一服してから一般道に合流して、みんなの待つ涸沢へと下った。








《エピローグ》

結局今回は全5ピッチのうち2ピッチしかまともにソロシステムを使わなかったけど、うまく機能した。



前回の一ノ倉沢に引き続き、自分で考案したシステムでちゃんとクライミングすることが出来て、更にソロクライミングに自信がついた。



でも今回の登攀を振り返って考えさせられるのは、やはりソロシステムとフリーソロの使い分けだ。



V級までのピッチならフリーソロでもほとんど不安なく登れる。

X級は確保しないとさすがに不安だから迷わずロープを出す。



迷うのはW級のピッチだ。

迷わずにロープを出した方が安全なのは当たり前だけど、登攀中のロープ操作や回収のための登り返しはやっぱり面倒だ。

ぶちゃけフリーソロの方が時間もかからず面倒臭くないし、緊張感もあって楽しい。



だけどかなりのリスクを抱えているのは言うまでもない。

でも一つ言い訳をさせてもらうなら、そういったリスクを自分でコントロールすることがクライミングの本質の一つだと思う。



岩という鏡に自分を写し出して、その能力をどこまで正しく評価できるか、そのことに時には命さえ懸けるのがアルパインクライミングじゃないだろうか?





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