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谷川岳/一ノ倉沢
衝立岩 中央稜
2008年8月1日



《プロローグ》

以前、出合の駐車場から初めて一ノ倉沢の岩壁を見上げたとき、圧倒するような威圧感を感じた。



ここが何百人というクライマーが命を落としてきた場所か…

右手の衝立岩、左手の滝沢スラブは、まるで怪物の大きな二つの顎のようだ。

そこから伸びてくる雪渓は、怪物が長い舌を伸ばしてクライマーを死の淵へと誘っているようにも思える。



クライマーはどうしてこんなところを登ろうと思うのだろう?



世界でも類を見ない遭難者数を出しているこの岩壁に、その事実を知っていてさえ挑戦するクライマーは後を絶たない。

そして、一つのラインでは満足できず、より困難なラインを求めてその垂直の岩肌にルートを刻もうと挑戦を続けてきたのだ。





この怪物が、なぜそんなにも人を惹きつける魔力を持っているのだろうか?

どうやら自分もその誘惑にまんまと乗せられてしまったようだ。



今日、この出合いに立って、自らその怪物の懐に入っていこうとするのは自分一人しかいない。

登攀具をぶら下げて、沢の入り口に立って黒い岩肌を見上げると、おのずと鼓動が高まってくる。



雪渓の上を通って吹き下ろす風には、わずかに死の香りが混ざっている気がする。



沢を奥へと進んでいくにつれて、その香りが次第に濃くなっていくのが感じられた・・・







な〜んちゃって ☆

これまでのソロはぶっちゃけ、ほんと何も起こらなくてよかったよっていう登攀だったけど、今回は違うぜ!!

7月の三つ峠で試したルベルソを使ったソロシステムはかなり上手く機能した。



今回は二子山中央稜の時のようにぶっつけ本番じゃないぞ!!

今回のシステムは寮の廊下じゃなくてちゃんと岩場で試しているから大丈夫!・・・のはず。

魔の山と言われる谷川岳・一ノ倉沢 衝立岩にソロで挑戦だ!!







《出発》

今回の目的は、新たに考案したソロシステムが本チャンルートで機能するか試すことだ。

一ノ倉沢は山を始めたころからずっと憧れていた場所で、トポを見ながらどのルートにするか迷ったけど、やっぱせっかくなら「衝立岩」を登りたいって思って、中央稜に決めた。

前回の北岳バットレスでX級までのソロ登攀には結構自信がついたから、グレード的にもちょうどいい。

さっそく準備をして、前夜入りで一ノ倉沢に向かった。

8月の平日で規制日じゃなかったから出合いの駐車場まで車で入れた。

・・・あっ! 飯忘れた。

水上町まで引き返してコンビニで翌日昼までの食料を買ってまた出合の駐車場まで戻った。

それから食事して、車の中で寝た。



《アプローチ》

翌朝、5時半くらいに目を覚まし、コンビニで買ったパンと‘牛乳’で朝食をとってから登攀具一式をザックに入れて出合いを出発した。



まずは沢沿いを詰めていって、ヒョングリノ滝手前で右岸を高巻いていった。



巻き道の踏み跡は比較的明瞭だけど、真夏ってのもあって結構木々が生い茂ってる。

それなりに傾斜があって登りやすいとは言えないけど、迷ったりはしないだろう。



高巻きが終わると雪渓に向けて下り、再び沢に合流する。

この時はたしか古そうなフィックスロープがあったんだっけな。懸垂下降で降りたような気もするけど、忘れた。

気を付ければクライムダウンも可能だ。

雪渓上を歩いて、衝立沢に入ったところで雪渓が切れてた。





左岸に乗り移ってから衝立沢を横断し、テールリッジの末端に着いた。



テールリッジにはところどころフィックスロープが張っていて、最初はスラブ状のところを登っていく。



登り終わるとブッシュ帯となり、ここも踏み跡は明瞭だ。



ブッシュを抜けると衝立岩が間近に迫ってくる。



そのままリッジ上の緩傾斜帯を進んでいくと中央稜の取付きだ。






《登攀》

8.2mmのダブルロープをザックに詰め、チェストハーネス代わりに両肩にかけたスリングとハーネスにルベルソをセットした。

ザックから出した2本のロープをルベルソに通し、取付きの支点に末端をフィックスする。

これでソロクライミングの準備完了!

さぁ!いよいよ衝立岩・中央稜の登攀開始だ!

1P、まずはW級のフェイス。登り自体はそんなに苦労するところはない。



ホールド、スタンスを一つ一つ確認しながら登る。

カムやハーケンも持ってきてるけど、今回はソロシステムの確認が目的だから使える残置は使っていくつもりだ。

残置にクイックドローをかけて、ビレイ器(ルベルソ)の下側のロープをランニングにクリップする。



今のところ登る速度に合わせてロープは順調に流れている。

いいぞ。その調子だ。上手く機能してくれてるじゃないか。

適度な間隔でランニングを取りながら、順調に高度を稼いでいった。





すると突然ガクンッと下に引っ張られる感覚があった。

ザックのなかでロープがダンゴになって引っかかってるようだ。

ストックロープ(ザック内)とフィックス側でルベルソの両方からロープが引っ張られて、バケツ型ビレイ器の原理でロックが掛かってしまったのだ。

片手でホールドを持って体重を支え、もう片方の手でザック内のロープを何度か引っ張るとダンゴは解けたようで、またロープはビレイ器を流れ出した。

しかし高度が高くなるにつれてロープの重みが増してきて必要以上にロープが流れてしまう。

ロープが弛んでると墜落距離が大きくなるから、ロープがずり落ちないようにランニングにもフィックスしながら登った。





1P目のリードを終え、ランニング回収のため懸垂下降で再び取付きに降りた。

二子山中央稜での反省を生かし、下降では支点回収をせず、通過した支点にフィックスしながら下まで降りた。

これは登り返しの時のロープの伸びを抑えるためだ。この方法も効果的で、登り返しも苦労せずに済んだ。

支点回収を終え、再び1P目の終了点に戻ってきて、すでにこのシステムに大いに満足していた。





ロープを引き揚げ、絡まないように注意しながら再びロープをザックに詰め、ビレイ器をセットしてから2P目に取り掛かった。

2P目はトポでは「泥のルンゼ」だ。



草付交じりで登っていくと、行き詰ってしまった。

岩はしっかりしてそうだけど、ホールド、スタンスに乏しい。

少し探ってみたけど、唯一ホールドになりそうなクラックも持ちづらく、今の自分にはフリーで越える自信がない。



仕方なくクラックに刺さっていた残置ハーケンにスリングを掛け、それに足を掛けて体重を乗せると、グニョーン、とハーケンが曲がった。

やっべ!!!

あわててスリングから体重を外し、一旦安定した場所に戻ってもう一度トポを見直した。

2P目の終了点からカンテを右に回り込むはずが、どうやら2P目終了点を過ぎてそのまま直上していたようだ。



少し戻ると2P目終了点があり、そこから右に回り込んで正規ルートを見つけることができた。



ここからは衝立岩正面壁を真横から眺めることがでる。



凄い壁だ。いつかこのど真ん中を登る日が来るんだろうか・・・





3P目のフェイスW級は快適にこなし、いよいよ4P目、核心のX級-だ。





ここは上部のラインが二通りあって、チムニー、またはその左のフェイスを登れるようだ。

それまでのライン取りでフェイスを登るほうが自然に思えたから、フェイスに入っていった。

しかしこの箇所は大きなホールドがあまりなくて、細かくて甘いホールドでムーブを起こそうとしては自信がなくて安定した箇所へ戻り、っていうのを何度か繰り返した。

確保はしてるけど、このシステムでまともにフォールしたことはない。

だからやっぱりリスクの高いムーブはやりたくない。でもここを超えないと上には進めない。

次の終了点はすぐそこだ、フォールしてもきっと停止してくれるだろう、と最後は自分のソロシステムを信じ、全神経を集中させて細かいホールドを使って乗り込んだ。





・・・・ふぅっ。ソロ楽しぃ〜っ!!!

なんとか落ちずに核心ピッチを終え、残りはV級までのピッチが続く。



見る限り難しくはなさそうだ。

ぶちゃけ登り返し面倒だし・・・

よし!後はフリーソロで行こう!!

ロープをザックにしまって確保なしで登り始めた。

特に不安なところはなく、6P目の途中には露出感のある箇所も出てきて楽しい。



最後は凹角を詰めて衝立ノ頭に出た。







時刻は13時過ぎ。なかなかいいペースだったぞ。

稜線まで行こうかと考えてたけど、もうすでに満足しきってたからその先には行かなかった。



衝立ノ頭で昼食を食べて、ゆっくりと景色を楽しみながらさっきまでの登攀の余韻に浸った。





《下降》

さてと、そろそろ降りるか。

下降は北陵からの懸垂で降りた。



衝立ノ頭に結構しっかりした懸垂支点が設置してあって、それを使ってまずは3回ほどブッシュの中を懸垂下降した。

ロープを引くときに途中で引っかからないかと不安だったけど、引っかかりはしなかった。

それから踏み跡を辿ってトラバース、1回懸垂してまた踏み跡をたどると次は空中懸垂だ。

初めての空中懸垂に一人でウキウキしながら降りた。



コップ状スラブに降りち、トラバースして略奪点に向かった。



後は衝立前沢をひたすら下って本谷に合流する。



衝立前沢は1か所だけそれなりの落差のところがあって、ロープだそうかどうか迷ったけど、めんどくさかったからクライムダウンした。

本谷の雪渓への乗り移りでシュルンドが大きくて、濡れた側壁を辿って狭くなったところまで移動するのが怖かったけど、なんとか雪渓に乗り移った。





無事に出合いまで帰還すると、もうすでに17時だった。



出合いから振り返って改めて衝立岩を見上げると、さっきまで自分があそこにいたことが信じられなかった。



《エピローグ》

今回の登攀で自分なりのソロ登攀方法が出来上がったと言っていいだろう。

まだ工夫・修正できる部分はあるけど、かなり現実的な方法だ。



これまでも、もっといろんなルートをやりたいのに特定のパートナーがいなくて困っていた。

だけどこれで自分だけの都合でいろんなところに行けるぞ!

しかも普通の登攀よりもやりがいのあるスタイルだ!

まだまだ国内には登る価値のあるルートがたくさん待っているんだ。

これからもいろんなルートにソロで挑戦してやるぜ!!!






そんなことを一人考えながら駐車場に戻り、これから先も頼もしいパートナーとなってくれるギアたちの詰まったザックを車に積もうとドアを開けた瞬間・・・








臭っ!!!!


朝の牛乳だ・・・・

真夏の太陽に照らされて高温になった車内で朝飲み残した牛乳が発酵し、納車したてのフォレスターに充満してた・・・

これから所沢まで3時間、この車をソロで運転かぁ・・・・(涙)



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