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南アルプス/白根三山
北岳バットレス
第4尾根主稜
2008年7月19日〜20日



《プロローグ》

ついに憧れのバットレス登攀の時が来たぞ!!!!





登山を始めて1年目の夏、初テント泊縦走で北岳を登ったとき、立ちはだかるバットレスの大岩壁を大樺沢から見上げ、そこに豆粒のようなクライマーを見たとき、人間がここを登れるんだー!!と驚いたことを今でも覚えてる。



それから2年、このバットレスを登りたくてクライミングを始め、マルチピッチを練習し、クラック&ナチュプロを教わり、挙句にはソロクライミングにまで手を出した。



これまでの成果を発揮するときがついに来たんだ!!!!



全てはこの日のためにあったと言っても過言ではない!!!(←過言)

2年前はここを自分がソロで登ろうとするなんて想像もできなかった・・・(←まだ想像できてないけど)



ソロのシステムについては既に6月の二子山で試した!(←散々だったがな!)



もしもの時にはペコマ&チッペもいるから大丈夫だろう!!(←結果的に“もしも”の状況に陥ったのはこの二人の方だったけど・・)



アプローチもトポもしっかり頭の中に入ってるし!!(←ペコマの頭の中にね。)






《アプローチ》7月18日

例によってペコマ&チッペと3人で所沢を出発し、芦安の駐車場で前夜泊して、始発のバスで広河原に向かった。





ペコマ&チッペは登攀具とビバーク装備を持って、その他の荷物は広河原にデポして出発したけど、俺は白根御池でテント泊するつもりだったから荷物は二股まで全部担いで歩き出した。





さすがに荷物の量が違うから二人の方が足が速い。こっちはどうせソロのつもりだから二人には先に行ってもらった。



大樺沢沿いの樹林帯には木漏れ日が差し込んでいて、沢の音と木々の緑に癒される。



二股に到着し、ロープとギア、雨具と行動食だけ持って、テントその他の荷物はここにデポしてまた歩き始めた。



下部岩壁はbガリー大滝を登るのが結構一般的らしい。

bガリー大滝に取付くためには一般道からバットレス沢へと入っていくんだけど、どれがバットレス沢か分からない。



多分これだろうと、一番最初の比較的顕著な雪渓を詰めることにした。



だけどあまり人の歩いた跡はなさそうだ。うーん、トポはペコマ任せだったから、せめて取付きまでは一緒に行けばよかった・・・

と今更ながら悩んでると、頭上でガサガサいってるのが聞こえた。続いて二人の声らしき音が聞こえたから大声で呼んでみた。

するとどうやら二人も迷っていたらしく、運よく二人と再び合流することが出来た。



結局バットレス沢はもう一つ上だったみたいだけど、戻るの面倒だから灌木帯をバキバキ藪漕ぎしながら進んだ。





そして何とかbガリー大滝の取付きに到着することが出来たんだけど、そこまで一般道並みの踏み跡が続いていて、そこを通って他のパーティーがどんどん上がってきてた。





こりゃ下部岩壁からかなりの順番待ちだぞ・・・






《登攀》

とりあえず雪渓から滴る雪解け水でペットボトルを満タンにしながら順番を待ってたけど、一向に順番が回ってくる気配はない。





何となくbガリーの右のフェイスを見上げてみると、傾斜はそんなに強くない。ホールドもありそうだ。



一般的な登攀対象ではなさそうだけど、ここ登れそうだな・・・



取付きについた時点ですでに正午近かったから、この渋滞をまともに待ってたら日が暮れてしまう可能性大だ。

でもこのフェースを登れれば渋滞中のbガリー大滝を巻いて時間的にかなり短縮できることは明らかだ。



なんとか登れそうだけど、だからこそ逆に上部で詰まってクライムダウンが難しくなる可能性がある。

残置支点なんてないし、フェイスだからプロテクションも取れない。

つまり登攀時間を優先してここを登るとしたら、フリーソロで登るしかない訳だ。

もう一度フェイスをよく眺めて登れそうなラインを確認した。

少し迷ってからここを登ることに決めて取付いた。

中間部までは難なく登れたけど、上部に来ると逆層になってて登りづらい。



一か所緊張する乗り込みをこなして何とか落ちずにフェイスを抜けることが出来た。



安定した草付を抜けるとbガリー大滝の上部に出ることが出来たけど、ペコマ&チッペの先行パーティーが手間取ってるらしく、まだ順番が回ってきてないみたいだった。

待ってるとやっと二人の順番が回ってきたみたいでチッペリードで登攀を開始したようだ。



でもチッペもリードに手間取ってるらしく、なかなか上がってこない。



まだ四尾根の取付きにすら着いてないのにこの時点で14時過ぎてたから、さすがにもう時間的に限界だと思い、一人で先に進むことにした。



bガリー大滝上部から踏み跡をたどって左手の2尾根を巻き、cガリーに降りていき、cガリーを横断して灌木帯を20mほど登っていくと四尾根主稜の下部取付きにたどり着いた。



ここにも数パーティーが順番待ちしてたけど、ロープは出さずに(つまりフリーソロで)登るから先に行かせてくれないかと先頭のパーティーに頼んでみると、快く返事してくれた。



V級以下のピッチは快適にフリーソロで登っていける。



本来の主稜1P目のコーナークラックは見た目は簡単そうなんだけど、登ってみると結構ツルツルしてて悪い。

スタンスがないからフットジャムをきめて登るんだけど、このフットジャムが岩角にもろ当たってめっちゃ痛かった。



その後も数パーティーを抜かしながら快適に、しかし慎重に登っていき、ついに核心の「3mの垂壁」とか「三角の垂壁」とかとして知られる箇所に来た。



でもどこからどう見てもスラブにしか見えない。

まぁ、岩が傾くこともあるしな・・・



さすがに核心だけあって、ムーブには少し苦労したけど無事突破。



すぐにマッチ箱に到着した。



一般的にはここは左のスラブへ懸垂下降で降りるらしい。



ここまでせっかくオールフリーソロで来たから、なんとかクライムダウンできないだろうかと降りれそうなところを探してみたけど、上から見る限りはクライムダウンは難しそうだった。



諦めてダブルロープを懸垂用の残置支点にセットし、10m程降りて行った。



ロープを引き抜きザックにしまって、いよいよ最後の登攀だ。



最後のスラブ〜リッジもなかなか緊張感のある登りで面白かった。







《終了点》

振り返ってマッチ箱のクライマーを眺めつつ、憧れの4尾根をオールフリーソロで登ることが出来たという感慨に浸りながら、ふと2尾根の方を見下ろすと・・・





あれ?ペコマとチッペだ。どうやらbガリー大滝上部の踏み跡に気づかず、そのまま詰めて登ってしまったらしい。



大声で何とか会話できたから、そのことを告げると、どうやら二人もルートを間違えたことは認識してるようだった。



トラバースして4尾根に合流出来るかどうかやってみるみたいなことを言ってたような気もするけど、もう16時近かったから、こりゃ二人は4尾根は無理だなと思った。



二人と別行動になった際は翌日の朝に広河原で合流することになってたから、今日二人と合流することは諦めて頂上に向かった。










《山頂》



頂上からは見渡す限り、雄大な山々が連なっていた。



いまこの日本国内でここより高い場所は1つしかない。



2年前に初めてここに来た時の自分を思い出して、口元が緩んだ。



あの時の自分は、バットレスを登るクライマーを見上げて、雲の上の存在のように感じていた。



どうしたらあんなところ登れるんだろう・・・



その自分が、今日こうやってバットレスをオールフリーで登ってきたのだ。



しかもソロでだ。





少しでも長くこの場所で成功の喜びをかみしめていたいと、暮れゆく山々を眺めながら考えていた。






《ビバーク》

ビバーク装備は全て二股にデポしてきたけど、この美しい景色を後にして下るのは勿体ない。



結局太陽が水平線に沈んでからも残照の景色を山頂で楽しみ、肩ノ小屋のベンチでビバークすることにした。







・・え?なんでベンチでビバークしたかって?



貧乏学生は小屋に泊まるお金なんかないからですよ! というか財布もデポしてきたwww



真夏でも3000mの稜線の夜は死ぬほど寒かった。



雨具とフリースしか持ってなかったからそれを全部着込んで、さらにロープを地面に敷いてザックに足を突っ込んだけど結局まともに寝れなかった。



夜ってこんなに長いんだ・・・って思った。






《下山》7月19日

東の空が白んでくると、周りのテントにもポツリポツリと明かりが灯り始めて、狭い稜線は御来光を待ち構える人々で次第ににぎやかになっていった。







御来光を拝んだ後、8時広河原の約束に間に合うように下山路に着いた。





お花畑とハイマツ帯を通り抜け、二股にデポした荷物を回収し、大樺沢を駆け下り、7時半には広河原に到着した。







《エピローグ》

昨日山頂で何度か4尾根を覗き込んだけど、結局二人が登って来る姿は見当たらなかった。



多分取付きでビバークでもしたんだろう。



二人のことだから、もしかしたら朝一で4尾根をやって降りてくるかもしれないな・・・



まぁいいや、今日は何も予定はないんだ。二人が降りてくるのをゆっくり待つとしよう。



と考えていると30分もしないうちに二人が姿を現した。

この時間に降りてくるってことはどこも登らずに結局敗退してきたってことか・・・



俺「取付きでビバークしたの?」

ペコマ「いや、山頂でビバークしてた。」

俺「あぁ山頂でね・・・・・・・


・・・・・・・・山頂!?





その後、前日の壮絶な体験を二人から聞いて、しばらく開いた口が塞がらなかった。







ペコマはHP『尾根の向こう』のこの記事の中で、バットレスのことを「遊園地のアトラクションのようだ」と表現しているけど、確かに取付き渋滞の待ち時間はディズニーランドのアトラクションに匹敵してたな。

おそらく二人が経験した第二尾根の落石はビッグサンダーマウンテン並みのスピードで襲い掛かり、真夜中までかかった暗闇の中の登攀はスペースマウンテンのような先の読めないスリルがあったに違いない。





ついでにもし支点が抜けてたら、タワーオブテラー顔負けのフリーフォールでホーンテッドマンションの幽霊になってただろうけど。



まぁ何はともあれ三人とも無事に下山でき、今回の山行は成功だったと言えるだろう。





ほんとお互い死ななくてよかったね!







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